アマリリス 2



さくらは家に帰ってからも、ずっと本を握り締めていた。
好きな人と同じ本を今読んでいる…
たったそれだけのことなのに、ただの偶然とはなかなか信じることができずにいた。
その一方で、ただの偶然なんだから…という気持ちもあった。

さくらの今読んでいる本は、別に今のベストセラーでもなんでもなく、
本屋さんの奥の棚で発見した詩集だった。



『空からサクラが散ってくる
パラパラパラと散ってくる
あなたは隣で優しく微笑む
あなたのその笑顔は サクラの花に溶け込んで
もっと素敵に見えました』



別にたいしたことない詩だと思う。(少なくともさくらにとっては)
それに、本を買った理由も、本の題名が『サクラ』だったからだし…(自分の名前と一緒だから)
だけど、こんなマイナーな本を好きな人も読んでいるなんて!!!

オクテなだけでなく、妄想癖をもつさくらは思わず詩の内容と自分を照らし合わせる。

でも、あり得ないんだよなぁ、と後でいつも一人で凹んでいる。

あり得ない…
そう…
さくらにとってはあり得ないだけで。
もっと積極性のある子なら、もしかしてあり得るのかもしれない。




次の日の朝。
ちょっとウキウキしながらバスに乗る。
例のあの人は今日は寝ずに外を眺めていた。
そして、さくらがしばらくその人を見ていると、さくらの視線に気づいたのか、目があった。
さくらはいつも通りに、目を逸らす。
どうせ…
また叶わない恋なんだから。
それに、きっとあの人にはもう彼女がいるはず。
さくらは自分に言い聞かせて、昨日とは違って、前の方の席につく。

あぁ…
なんで私はいつもこうなんだろう!?
笑いかけるとか…できるのに。
それに、席だってわざわざこんな前に来なくたって…

そんなことを考えているうちに、あの人の友達が乗ってきた。

「おお、蓮、おはよ。」


蓮…!?
初めて聞いたあの人の名前。
今まで何回もバスが一緒だったけど、友達があの人を“蓮”と呼ぶのを初めて聞いた…
さくらは一生懸命“蓮”という名を胸に刻み込む。


「さくら…ねぇ…もう春かぁ。お前にも早く春が来るといいな♪」
「おっお前…関係ねーだろ。人のことはほっとけ!!」
「ほっとけないさ〜。だって親友だぜ?」
「お前の友情は信じれん。」
「なんつー酷いことをっ!ま、そうやって頑張ればいいさ。」
「………」

さくらはいつも二人の会話を盗み聞きしていたが、こんな話をしているのは初めて聞いた。
いつもは好きなバンドの話とか、授業の予習のノートを見せてもらったりだとか、そんなことばっかりなのに。
なんだか…今日は恋バナな感じ…??
さくらはドキドキしてより一層耳を澄ます。


「でもなぁ〜。お前、マジで彼女いたことないの?」
「…うるせ。」

蓮は少し参った声になっている。
しかし友達は平然と続ける。

「ま、そりゃ、できないか。それだけオクテならね。」
「………。」

蓮は無視を決め込んだようで、黙りこくっていた。

そのうち、終点に着き、さくらは席を立った。
と、その瞬間、さくらの真後ろに大きな人が来たので、顔を見上げると、蓮がさくらの顔を見ていた。
さくらはすぐに顔を前に向け、急いでバスを降りた。


「あっ、ちょっと。」

そんな声が聞こえた気がしたが、きっと自分の幻聴だと思い込んださくらは急いで学校へ向かった。



名前は“蓮”で、しかも今まで彼女がいないのね…
それでいて、オクテなんだぁ〜。
あんなにかっこいい顔してるのに…
勿体ないなぁ。


そんなことをボーっと考えながら教室のドアを開け、席について初めて気づいた。

定期入れが鞄の中に入っていないことに。