アマリリス 1
夢は小さい頃からずっと同じ。
花嫁になること。
大人になったら、素敵な人と恋に落ちて、そしてプロポーズ。
友達を沢山結婚式に呼んで、そして皆に祝われて…
でも、私には問題があった。
それは、異常なほどのオクテだということ。
しかもそれだけじゃなく、男の人と話すのも必死である。
唯一普通に話すことができる男の人は、パパだけ。
「そろそろさくらもお嫁さんになる歳ね♪学校にはカッコイイ人いないの?」
母、桃子。
43歳。
年の割りに精神年齢が若い。
特に、男のことになると、まるで女子高生のようにはしゃぐ。
PTAなどでかっこいい父兄を見つけると、すぐに知り合いになってしまうというほどの男好き。
さくらがオクテなのはその反動であろうか…
「何をくだらない話をしてるんだ。さくらはまだまだ結婚には早いだろう。」
さくらの父。
47歳。
典型的な厳格父。
だけど母にベタ惚れで母には異常に優しい。
そしてもちろん、一人娘の私にも。
「あら、そんなことないわよ♪あなたが私にプロポーズしてくれたの、二十歳の時だったじゃない♪」
「………」
こんな風に、母はサラッと父を苦しめる。
父は真っ赤になりながら、母の淹れた紅茶を飲み干す。
そんな家庭で育った私。
だけど、どうしても母のようには振舞えない。
そういう自己嫌悪感が益々私を男嫌いにする。
私は自分の部屋の鏡を覗き込み、溜息を吐く。
母から譲り受けた大きくきれいで澄んだ目に白い肌、そして、父から譲り受けた高い鼻と長い手足。
昔から周りにチヤホヤされていたこともあって、ルックスにはそれなりの自信がある。
だけど。
いざ、好きな人の前に出ると、拒否反応を起こしてしまう。
今までだって、何度か声を掛けられてことはあった。
しかし、さくらが拒否反応を起こすことによって、その人すら引いてしまい、その恋は敢え無く終わった。
どうしてなのだろう…
私だって人並みに恋して、母のように幸せに結婚生活を送りたいのに。
そのことを考えると、さくらはどうしても落ち込んでしまうのだった。
そんな或る日、さくらは久々に恋をした。
その人は、いつも学校に行くバスの中で会う人。
背が高く、顔も整っていて、誰が見てもかっこいい。
それに、友達とはしゃいでいる姿は可愛くて、だけど一人でいる時の大人っぽい雰囲気はかっこよくて…
もちろん、そんな人だから狙う人も沢山いる…と思っていたのだが、
実際、さくらが乗るバスに乗っている女子数は少ない。
それに、その人は男子校。
そう考えると、さくらにも幾分かチャンスがあるのではないか、と思うのであった。
しかし。実際、さくらは重度のオクテ。
同じクラスの男子にも話しかけることはできないし、友達になんてなったことなどない。
そんなさくらがその人と知り合いになることも、もはや難しい問題だった。
今日もまたあの人に会うため、さくらは胸を弾ませながらバスに乗る。
整理券を取った後、すぐにあの人がいつも座っている場所を見る。
いた!!!
その人は、文庫本を手にしたまま、下を向いて眠っているようだ。
さくらは思わず顔の筋肉が緩む。
確かに、バスの窓から差し込んでくる日差しは暖かくて眠気を誘うかも。
さくらはその人の前の席に座り、自分も本を開く。
そして、はたと、あの人が読んでいる本が気になった。
後ろを見れば、本のタイトルは多分、すぐに分かる。
それに、今日は寝ている。
今日のようなチャンスはまたとないかも…
オクテなさくらにとっては、好きな人が読んでいる本の題名を知ることさえも非常に嬉しいことなのだ。
さくらは首の筋肉を少しだけ横に向ける。
隣の席では女子高生が一生懸命化粧をしている。
よし、あと一歩。
その時、バスが次のバス停に止まろうとしていた。
次のバス停ではあの人の友達が乗り込んできて、本の題名を見れるチャンスなんて無くなる!!
そう思ったさくらは追い詰められて、一気に後ろを振り返った。
「あっ!!」
さくらは思わず声を上げてしまい、急いで前を向いた。
さくらはしばらく心臓がドキドキしていた。
何故なら、あの人が読んでいた本と、さくらが読んでいる本が全く同じものだったからだ…
しばらくして、次のバス停に着き、あの人の友達が乗り込んできた。
「おはよう。あれ?お前何読んでんの?」
「いや…別に…」
「なんだよ、いきなりそんな難しそうな小説読み始めちゃって…」
「昨日本屋の前通りかかったら、最前列に並んでたから気になったんだよ!」
「ふーん。」
同じ本…
同じ本!!!
さくらは思わず嬉しくなって、本をギュッと抱きしめてしまった。
そんなことをしているうちに、終点に着いて、さくらは急いで降りた。
好きな人が友達と一緒に学校の方へと歩いていくのをしばらく眺めていた。
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